Project ANIMA第二弾「異世界・ファンタジー部門」は、DeNAとエブリスタの編集者・プロデューサーによる一次審査、DeNA・創通・文化放送・MBSの四社およびアニメ制作を担うJ.C.STAFFのプロデューサーによる二次審査、最終審査を経て、この度受賞作品を決定しました。
厳正なる審査の結果、総合的な評価が最も高かった優月さんの『魔法使いになれなかった女の子の話。』を大賞に選出しました。同作をアニメ化対象作品原案とし、2021年の放映をめざして制作を開始します。
定峰アトラはタロット占いが得意な女子高校生。学校からの帰り道、いきなり一面砂漠の世界に転移する。 その世界は長期受刑者の囚人が恩赦をかけてサバイバルバトルを繰り広げる『監獄島』。アトラは囚人のひとりであるラバーズの『占い師』、カードの主として戦わなければならないという。
選評初期設定がしっかりしているため、ゲームや舞台などさまざまな横展開が想定できる作品です。「絶対好きになってはいけない相手」をバディに持ってくる手腕が見事。男性キャラと女性キャラの両方が魅力的に描かれている点も評価できます。精度の高い文章は読みやすく、かつ続きが気になるストーリーでした。ぜひ完結まで書ききってほしいです。
20世紀初頭。兄・制を頼ってロシアに渡った宇多川開は、エルミタージュ美術館で謎の人物に身柄を拘束される。
めざめた開が目にしたのは、見様見真似で空を飛ぶことができる「天狗」に改造された3人の少女。「3人の少女たちとともに、ラスプーチンの行方を突き止めて欲しい」。
帝政ロシア×烏天狗でラスプーチンを探す旅、という外連味たっぷりの大枠だけで個性は十分。重々しい設定の中で軽快なやり取りが光ります。バトル展開をどう設定するかなど、今後の方向性についていろいろ妄想が膨らみますが、メインキャラクターの魅力がもっと書き込まれていたら、より一層読者の共感を呼ぶ作品になるでしょう。
西部開拓時代のアメリカ。そこでは、人を襲う『グール』という怪物が多発していた。
グールに襲われて家族と家を失ったソフィアは親戚の元へ身を寄せるが、グールの大発生により町は壊滅、ソフィアも襲われてしまう。人はグールに噛まれると寄生虫「ゴールデンスナッチャー」によってグール化するが、ソフィアはその抗体の持ち主だと知らされる。
金と敵の特性の関係がしっかり練られており、ゴールドラッシュのアメリカを舞台にする必然性が担保されています。西部からニューヨークをめざす構成など、物語の図式と作者がその中でやりたいことがハッキリしており、好感が持てます。キャラクターもよく動いていますが、ファンタジーというよりはSF作品だったことがやや残念でした。
地上が人のものではなくなった世界で正確に時を刻み続ける鴇読町。別名、螺旋街と呼ばれるこの町の住人、祭嘩は剣の腕をたのみに、悪党を見れば斬るという信条の持ち主。
火曜日を奪われた人々、異形の怪物、暗躍する謎の人物。崩壊しかけた世界を舞台に七つのランプを巡る物語が動き出す。
一行目から作品世界へと読者を引き込み、離さない文章力は圧巻の一言です。詩的で独特な世界観ですが、描写の力で映像的に見せることに成功しています。街や人物のネーミングはじめ、細かいワーディングにもセンスを感じました。反面、TVアニメシリーズとしてのメジャー感をどこまで確保できるかがやや未知数で、このまま小説として読みたいと思わせる作品です。
舞台は19世紀末、栄華極まる大英帝国。魔都ロンドンの地下には闇と神秘の魔術ブームが広がっていた。
ある日、悪名高きニューゲート監獄から一人の男が出所した。その名はブラック。彼こそ魔都にはびこる魔術を否定すべく雇われた英国一の詐欺師。こんなトリック誰がやる?紳士の嗜みに限度はないのか?ワルい7人がクールに騙す、絢爛豪華なブラックマジック・ショー!
派手な世界観と登場人物で極めてエンタメ力の高い作品に仕上がっています。アニメ化のイメージがしやすい点も高評価でした。絵的なパワーがある一方で、時代考証やトリックの巧妙さなど、ある程度の専門性や緻密さが求められる作風でもあるので、設定はもう一段階深掘りする必要がありそうです。しっかりファンが定着しそうな作品なので、今後も継続して書いていただきたいです。
時が進むことで人が死ぬのではなく、人が死ぬことで時が進む世界。巨大な砂時計の中に遺灰を流し込むことで、辛うじて時の歩みを保つ世界。
主人公のアリアス・サパスは、上司クロードとともに、砂時計の維持のために遺族から遺灰を回収する「時葬官」として、日々の業務に奔走している。
「死」をテーマに作られた独特な世界観でありながら、老人と青年のコンビ感が心地よく、不思議と重さを感じさせないのが魅力。細かなエピソードも非常に上手く書かれており、テンポよく読めてしまう小説としての完成度の高さを感じました。一方で、「人が死ぬことで時が進む世界」を映像的にどう表現していくかが難しく、視覚的な特徴や分かりやすさが作品に反映されていると、よりエンタメとして昇華しやすい印象です。
ワークワークと呼ばれた倭人はいまだ国を持たず辺境の蛮族と蔑まれていた。ワークワーク遠征軍の戦さ巫女ウラは友人サンスとともに龍脈の再生を試みる。
伽耶のデグ、新羅の金城、そしてかつての楽浪郡の郡都であった王険城へと龍脈をめぐる旅が始まった。 倭国誕生にまつわる空想的冒険風水ファンタジー。
晋の時代、ワークワークと呼ばれた辺境の民族の物語。ワクワクするほど壮大な題材と親しみやすいキャラクターで、重厚な舞台設定を難解に感じさせず読ませることに成功しています。アクションシーンも非常に鮮やか。ファンタジーならではの楽しみを目いっぱい味わわせてくれます。ただし、アニメという表現形式でこの作品の魅力を伝えることは難しいかもしれません。
超人的身体能力を持つ人間による時速500kmを越える人力飛行機レースの物語。
熾原勁二は、父に勘当されて内地に降りる。そこで初めて人の力で空を飛ぶ乗り物、飛行機を目にする。
超人たちが人力飛行機で挑むレース。現実に存在しない機体、存在しない競技をまるで体験しているかのように生々しく描く文章力に、この筆者はただものではないと感じました。選手それぞれが抱える悩みや苦しみがレース競技を様々に彩る様子も非常にバランス良く描かれており、一気に読ませる作品に仕上がっています。TVアニメシリーズとして一話ごとに切り分けるのは難しい作品かと思いますが、ぜひ完結まで小説として読みたいです。
ユーロ危機による混乱が続くヨーロッパに、突如複数のダンジョンが出現、状況が一変する。攻略を生配信していたユーチューバーが大金を得たことを受け、一獲千金を狙う人々がヨーロッパへ押し寄せた。
主人公のケイは経済破綻した夕暮市出身、市役所に就職が決まっている大学生。ケイには祖母の病気の治療費のために農家へ嫁ぐ予定の恋人がいる。夕暮市が復興し仕事があれば恋人が自由な生活ができると信じるケイは、ヨーロッパへ飛ぶ。
「ファンタジー×経済」というテーマの作品群のなかではずば抜けて完成度が高い一作です。リアリティラインのバランスも非常に優れており、魅力的な作品だと感じました。アイデア力、文章力、構成力のレベルが極めて高い反面、キャラクターの魅力については「映像化」という観点で少し弱い印象です。
広大な宇宙空間に浮かぶ超巨大植物「オメガサボン」。その構造はサボン周囲を覆う1つの外縁部とサボン本体の、異なる役割を担う11の階層からなる。その外縁部通称「クチクラ」に暮らす人々がいる。
記憶を失くした不死の少女が、空から落ちてきた少年と生きる意味を求め旅をする物語。
やや難解ですが、独特の世界観がしっかり構築されており、登場人物も自然に描かれています。行き場のない人が落とされる「クチクラ」の寂しさ、切なさ、生きるふりを続ける虚しさの表現を、セリフだけでなく背景やシーン、間の取り方など、作品全体で伝える演出力の高さは秀逸。読むほど作品に入り込めますが、序盤は主人公二人の背景があまり描かれておらず、若干感情移入のしづらさは感じられました。
世界中に点在する、神が生み出したとされる巨大な絵画・壁画。主人公ウェイは、弟子のエキドナと共に世界中を旅しながら壁画の修復を行う専門の魔術師・壁画師。
各地を回り修復と調査を繰り返す中、グラフィティ・アートで大きく塗りかえられ力が衰えた壁画に出会う。
「壁画師」という新しい設定で、師弟コンビが活躍する痛快ファンタジー。壁画自体に神の絵というオリジナル設定を持たせたことで、単なる絵の修復でなく、神の絵と世界を正す「壁画師」の魅力とエンターテインメント性がアップしています。連載マンガとしての発展性も感じられ、今後、二人が様々な壁画と出会い解決していくことで、どう世界と関わっていくか、非常に楽しみな作品です。
ある理由で猫にさせられた大魔法使いギーは、15歳の少女シエスタと共に数々の困難に立ち向かいながら旅を続ける。
敵である最強の魔法使いベノベノに現代に飛ばされながらも、ページェントといわれる超人たちの助けを得ながら、ベノベノとの最終決戦に挑む。
ハリウッド映画のような、ハラハラするストーリー展開とダイナミックな画面作りで、全体的な完成度が非常に高いです。「人の心にかけるのが魔法」という作品テーマを、一途で凛としたシエスタ、そして大魔法使いギーを通し、しっかりと描いています。とにかく猫化したギーが愛らしく、このキャラクターの存在が、作品における魅力の大半を引き出しています。続きの気になる作品です。
謎の遺跡浮上により、伝説のアイテムや生物・遺跡が復活し、世界中がトレジャーハントに沸く中。一人のトレジャーハンターがエジプトに現れる。
彼の名はロック。過去に殺されて一度死んだのだが、ゾンビのような不完全な状態で復活してしまい、それを解消するロストトレジャーを探していた。
エジプト神話をモチーフにした、アクション・バトルありの王道冒険ファンタジー。トレジャーハンターである主人公に「負」の要素も持たせていることが、キャラ独自の魅力増につながっています。浮遊遺跡の遺産を求める設定もワクワク感をもって読めますが、何より、大ゴマ・キメゴマを多用するなど、主人公ロックをカッコよく見せる配慮がふんだんにされており、読者アプローチへと繋げています。アクションセンスも極めて高いです。
主人公リアナは、高級毛皮メーカーの一人娘。母親は希少価値のある「ゴールドウルフ」の毛皮を全て自分のものにするという野望を持つ。
ある日、人助けをしてその日暮らしをしている兄弟エルとマノが金色の狼に変身したのを見て、リアナは二人の正体がゴールドウルフの生き残りであることを知ってしまう。
設定に派手さはありませんが、読者が入りやすい少年マンガとして描かれています。コマ割りも丁寧で読みやすいです。性の違うゴールドウルフ兄弟の魅力的なキャラ立て、彼らとの出会いで変化・成長していくリアナの心情、主人を慕う飼い犬のピュアな忠誠心など、各キャラクターの目線で共感できる人物描写が素晴らしいです。マンガとしてまとまっており、構成のレベルは高いですが、読切として完結しているため、アニメの企画としてはやや発展性が薄く感じました。
兄の死をきっかけに引きこもり生活を送っていた中学生男子・木下五郎の元を、兄の恋人だったという女性が訪れる。
その女性が兄から借りていたという扇子を手にした五郎は、突然闇に吸い込まれ、時代劇のような奇妙な世界「浮世」と呼ばれる場所に放り込まれてしまう。そして五郎は、街を襲う巨大な怪物と戦うひとりの少年と出会う。
「白波五人男」をはじめ歌舞伎の演目に登場する個性豊かな登場人物をアニメ的なエンタメに昇華させ、転生モノと融合させたセンスが高く評価されました。主人公と兄、兄の恋人の関係性などドラマとしても完成されており、選考会でも多くの審査員に支持されました。「歌舞伎」を観たことがない人が「歌舞伎」に興味を持つきっかけになりうる、そんな力を秘めた非常に可能性を感じる作品です。
16歳の高校生探偵・万世ヨシロウには、秘密がある。それは占い屋を営む兄カズも、怪しいパワーストーン売りの兄ケイジも、そして彼も、不老不死の吸血鬼だということ。
そんな彼らの元には、現代科学では解明できない悩みを抱えた個性的な客(イケメン)が次々と訪れる。果たして三兄弟は、今日も西池袋の平和を守ることができるのか……!?
「池袋ウェストゲートパーク」や「デュラララ!!!」などの大人気先行作を踏まえながらも、「最新の池袋像を更新したい」という気概を買いたいです。キャラクターデザインもかわいく、特に衣装スタイリングにセンスを感じます。吸血鬼という設定が生ききっていないので、各話のおもしろさだけではなく、全体を通しての大きなストーリーがあればより深みが出るでしょう。
貴族の子息が通う「王立キュベリィ騎士学校」。各学年の定員は25名と狭き門で、さらに学内の実力ランキングが卒業後の進路に影響する。
騎士団長を父に持つタスクは、魔法や武術の実力が中途半端。騎士団への入団は不可能に近いと告げられるが、どんな失敗をしても褒めてくれるメイド「シェンメイ」の勢いに乗せられ、学園序列を駆け上がる決意を固める。
とにかく「承認欲求」を満たしてくれる存在「褒メイドさん」の設定としての突き抜けっぷりは、読んでいて気持ちが良く、ネーミングについてもセンスを感じました。ストリーラインはキレイにまとめられていて映像化のイメージがしやすいものの、逆に作品として優等生すぎて「褒メイドさん」のキャラ感も小さくまとまってしまったのが惜しい部分だと感じました。
スミの村に住む主人公ニールは、偉大な魔法使いの両親を持つ14歳の少年。ある朝父親と喧嘩をしたニールは、美術の授業で感情のままに両親が魔王と戦った様を描いていた。
しかし描きあがる瞬間、絵から魔王が飛び出し、両親を捕らわれてしまう。魔王の復活とともに魔力を取り戻し「ピクトサモン」の能力を得たニールは、行く先々で出会う仲間の協力を得ながら魔王の討伐を目指す。
ベーシックで王道な展開ながら、イラストから設定の丁寧さが感じられる好感の持てる作品です。キャラクターの可愛さも◎ただ、主人公の「ピクトサモン」という絵を具現化できる能力が単に作品の要素の一つとなっていたのがもったいない印象です。「絵」というキーワードをもっと深掘りして、作品全体の核に据えられるとより特徴的な作品になったと思います。
今回、応募頂いた企画のなかには「ファンタジー」とは呼べない企画も多数ありました。企画の多様性の観点からそういった物も含め熟考、議論を重ねて大賞を選びました。
『魔法使いになれなかった女の子の話。』は、物語の始まりはスタンダードな「よくあるファンタジー学園物」を想起させますが、キャラクターの立たせ方には目を見張るものがあります。今回のプロジェクトのアニメ化対象作品として、今後のストーリー展開の幅・可能性を感じました。
設定の面白さ、話の面白さを更に高めてアニメ化に臨みたいと思います。
松倉友二氏 (株式会社ジェー・シー・スタッフ 執行役員制作本部長 チーフプロデューサー)